FROME シオダユウヤ 東京
記憶と経験を紡ぎ、編んだ先に生まれたFROMEというプロダクト(後編)
VOICEの香内斉が、尊敬する“人”にフォーカスを当てる「JOURNAL」。9人目としてご登場いただくのは、VOICEで初の個展を開催するFROME(フローム)を手がけるシオダユウヤさんです。前編では、今のシオダさんが大きく影響を受けている生まれ育った場所での記憶を中心に伺いました。後編ではFROME誕生の背景に迫ります。(全2回)
text:Kaori TAKAYAMA(Magazine isn’t dead.)/ photo:Hitoshi KONAI
革に興味を持ったのは、つくることができると気づいたから
在学中に始めたレザークラフトを細々と続けていたところに、とある店の存在を知る。家具の製作や内装の設計・施工を手がける会社が、バッグや日用品を自分たちで企画製作し、店舗を構えて販売していたのた。東日本大震災のあと、自身の働き方について悩んだ時期があった。「デザインは主にデジタルの世界でやっていたのですが、手で触れられるものが好きだし、自らつくることを尊重した仕事は素敵だなって思ったんです」。
店に通ううちに距離が近づき、転職。主に店舗に立ちながら、接客やオンラインショップの管理運営、取引先の対応など幅広い業務を担当。「一緒に働いていたスタッフは気の合う人たちばかりで、今に繋がる縁もたくさん得ました」。
ところで、革に興味を持ったのはどのようなきっかけだったのだろうか。「革小物を自分でつくれると気づいたことですね。いわゆる製品って設備が整った工場でしかつくれないと思っていたんですけど、道具があればつくれるものだと知って。それならやってみようと思ったんですよね」。祖父と過ごした記憶が重なる。「思い描く完成像は漠然としているのですが、“できる”というのがあるんです。そういえば、釣りで使うルアーもつくっていました。ルアー釣りをやるうちに、ルアーをつくる方に興味が移って材料を買って始めて。小学校5年生くらいですね。そういう先行事例が自分にあるからつくれるかも、楽しそうというのがあるのだと思います」。
革という膜で包まれるものとは
カードケースやコインケースなどを革でつくり、やればやるほどこだわりも強くなった。約7年働いた会社を退職し、しばらく時間があるから好きなことをしようと決めた2019年の冬。次第にコロナウイルスが日本で猛威を奮いはじめた。「徐々に不安が大きくなっていきました。つくることを続けていくにしても、仕事に就きながら活動していくのが良いのかもしれないと。これまでの経験を活かしながら興味の幅を広げられるかもしれない、と海外インテリア商品の輸入やオリジナルプロダクトの企画製造販売をする会社へ入社しました」。
少し時が遡り、2017年頃。FROMEの核となる黒い革で包まれたプロダクトが産声を上げた。「コロナのときに、ストレスがあったのかこれを結構触っていたんですよね。無職で時間もある。行ける場所も限られているし、とりあえず川にでも行こうと。お気に入りの石にあらためて革を巻いてみたら楽しくて、つくること自体にハマって。革で何かをつくっていても型紙を使って同じものを一度に沢山つくるのは性に合わない。飽きちゃうんですよね。そうではなく、同じ技術を使っていても石の形が違うと毎回苦心する。いつも新鮮さがあって楽しいんです」。
革に包まれていたのは、石だ。革という膜ができることで石そのものの硬さが和らぎ、滑らかさが生まれる。「ずっと握っていたくなるのはなぜだろうと考えたときに、人間の骨が突き出た部分を触っているような生っぽさがあるなと感じて。肘とか膝とか。革って結局そういうところを覆っているもの。だから平面よりも立体的に何かに沿っているという方が自然な気がして」。つくり続けるうちに気づいたシオダさんなりの答えだ。
緻密な思考を重ねるその過程に楽しさがある
コロナ禍のある日、インスタグラムで投稿した革の石を見たnostos booksから連絡が入る。ただ自分が好きで作っていたものを世に出すため、一度考えを整えることを決意。「革の石を置くのは、物事を考える場所が合うと思っていたんです。祖父の作業場のような書斎やデスクとか。置き物のようにどこかに仰々しくディスプレイするよりは、デスク上にあってふとしたときに触れるものというイメージ。なので本屋さんというのは面白いと思って、ぜひと。ただ、量産を前提にした製品にするのはよくないと思ったので整理ができるまで少し時間をくださいと伝えました」。
一番悩んだのが名前だ。前編の冒頭で触れたFROMEの名には自身への戒めも込めているという。「販売を目的にしすぎて自分の意に反するものになってしまうことは避けたい、ということでもあります」。パッケージには、石の採取地が示され、存在していた土地に思いを巡らせることができる。初めて石に革を巻いてから、革の種類や厚さ、糸の色、石に革を沿わせる際の力のかけ方に至るまで試行錯誤を繰り返してきた。緻密な思考を重ね、たどり着くまで紆余曲折を経たが、その過程さえも楽しんでいるシオダさんがいる。「だからやっているのかもしれないですね。すんなりいけばそれに越したことはないのですが」。
現在一つのプロダクトのみを打ち出しているFROMEだが、革に特化していくという考えはない。「経験に基づく良いアイディアがあれば、素材や技術にとらわれずにつくっていくつもりです。感覚的にものをつくっていかないと、とは思っていて。マーケティングありきの取り組みは避けたい。紙の箱が好きでつくりたいイメージはあるのですが、費用が見合わなかったり、ストックしておく場所の確保も難しいので今すぐにできるレベルではないのかなと。一歩前に踏み出す勇気が必要ですね」。
初個展の会期中である10月末日を以って退職。晴れて独立した。「デザインすることを軸に撮影やクラフトなど、さまざまなことに積極的に取り組むつもりです。ただ、何が何でも一人でやっていくという考えはなくて。チームの良さも知っているので。良い縁があればチームでやっていくのもいいなと思っています」。
最近越してきたばかりだというスタジオから広がる開放的な景色が印象的だった。天気のよい日は富士山も望めるらしい。目の前に流れる小川には、白鷺や青鷺が姿を見せる。静まりかえった夜になると、川のせせらぎが部屋まで届くという。環境も変わり、新たな道を歩みだしたシオダさんは、ここからどんな経験を得ていくだろう。記憶と経験が紡がれ、編まれた先に生まれるあらゆる形を楽しみに待ちたいと思う。
FROME exhibition “Serendipity”
日程 : 2021年10月30日〜11月7日(11/1、11/2は定休日)
場所 : VOICE (東京都渋谷区神宮前3-7-11)