FROME シオダユウヤ 東京

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記憶と経験を紡ぎ、編んだ先に生まれたFROMEというプロダクト(前編)

VOICEの香内斉が、尊敬するにフォーカスを当てる「JOURNAL」。9人目としてご登場いただくのは、VOICEで初の個展を開催するFROME(フローム)を手がけるシオダユウヤさんです。個展開始の数日前に訪れたシオダさんのスタジオ兼ご自宅。広い窓から遠くまで続く空と制作途中のプロダクトを眺めながら、シオダさんの生い立ちからじっくりと話を伺いました。(全2回)

text:Kaori TAKAYAMA(Magazine isn’t dead.)/ photo:Hitoshi KONAI

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FROMEとは

 丸みを帯びた歪なフォルムの黒いプロダクト。手に取ると、重さと革の質感が心地よく手のひらに馴染む。一点一点形も大きさも違うのにすべてのものが、だ。なぜだろう。丁寧に糸で綴じられた革の中には何が隠されているのだろうか。その姿に思いを馳せてみる。露わにされず包まれているからこその神秘的な魅力があり、どこか艶(なまめ)かしささえも感じられる。

 FROME(フローム)は、コロナ禍の2020年にクラフトプロジェクトとして始まった。「自分が今まで触れてきたものや見てきたものという経験から生まれるアウトプットを大事にしたい」と話すシオダさんは「from experience」という言葉から、「from」と頭文字の「e」を組み合わせた造語を名に冠した。いかにしてFROMEは生まれたのか。そこには、生まれ育った群馬県前橋市を起点として、記憶と体験が脈々と繋がり水面に顔を出すような自然な流れがあった。

 シオダさんが当初志したのは、調理師だった。「そういう世界に入るなら早い方がいいのかと思って、中学卒業の時点で調理師になりたいと言ったら両親諭されて。とりあえずまだ早い、と。高校を卒業しても調理師にはなれるし、生き急ぐな。高校は出ておけと」。両親は共働き。暮らしていたのは二世帯住宅で、「家に帰ると祖父母がいてお腹が空くと煮物とかひなびたものが出てくるんですよねそれはそれで美味しいのだけど、もっと自分好みのものが食べたくて始めたのがきっかけなんです。つくって美味しかったら誰かにも食べさせたいじゃないですか。美味しいと言われると素直にうれしくて料理をしたいって思ったんですよね」。

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つくることの背景にある、祖父と過ごした子供の頃の記憶

 シオダさんが料理に面白さを感じたのは、何かをつくって人を楽しませることが自分の楽しさになることを覚えたから。同じ文脈で小さな頃から工作が好きだったという。「高校生くらいのときに、つくることの一つとしてデザインという手段があると知って、デザイナーって面白そうと興味が湧いたんですよね」。卒業後の進路に選んだのは、大学の芸術学部デザイン学科だった。

 手を動かしてつくることの背景をたどると、同居していた祖父の存在が浮かび上がってきた。「祖父は大学の教授だったんです。すごい偏屈な人だったので、いろんなものを収集していてそれが部屋にバーっとあったりして。それこそ本が山積みになっていたりとか、いわゆる教授の部屋という感じ。暗くて、物自体も重そうで埃もかぶっているんだけど、触れると怒られる。でも、これは何?と聞くとすごい情報が返ってきて、その場でいろいろと教えてくれるんですよね。それは季節の花だったり、紙鉄砲や竹とんぼのつくり方だったり。まずは鉛筆を削れるようになれと言われたり」。高校3年生のときに祖父は他界。デザインの道に進むことは伝えられなかったが、「子供の頃の印象が強烈に残っているんですよね。なんとなく思い描く歳をとった像や、空間に対する憧れはあのときに見ていたものだと思います」。

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一つのものを軸に幅広くできる面白さを知って

 大学進学と同時に上京。デザイン学科では1年目に基礎を学んだのち、専門が分かれていく。「2年生くらいのときに迷うんですよね。大きく分けるとグラフィックかプロダクトです。知れば知るほどデザインというものが細分化されて専門職になることを理解していくんですけど、そのときは全然知らなくて、デザイナー=漠然と何かを形づくる人と思っていたので困ってしまって」。

 周りからの意見を聞く中で、グラフィックに方向性が傾く。「グラフィックデザインは他の領域のデザインを内包できると思ったんです。今後他のデザイン領域に興味を持ったとしても、グラフィックデザインのアプローチを応用すればやっていけるだろうと。そうやって選択肢を広げたままでいられるならそれいいかなと思ってグラフィックに進んだんです。選択肢を広げたままでいたいという考えは未だにありますね」。そして時を同じくして、形を変えて後々のFROMEに繋がるレザークラフトを趣味として始める(詳細は後編で)。

 卒業後、デザイン制作会社へ入社し6年間勤めた。「グラフィック、WEB、パッケージなど、ジャンルを横断してデザインをしていたんです。それぞれに必要な知識や技術があるので仕事を覚えるのは大変でしたけど、楽しかったなぁ。いろいろなことを教わりました」。ブランディングの仕事が印象深かったと言い、「キャラクターをデザインして、商品タグからWEBサイトまで全部に携わったんです。一つのものを軸に幅広く形づくる面白さを知りました。自分のベースになっていますね」。後編へ続く)