TOKYO DANCE. 土居 健 東京

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モノの価値を問い続けるTOKYO DANCE.

VOICEの香内斉が、自身と深く繋がりを持ち、尊敬する“人”にフォーカスを当てる「JOURNAL」。第二弾は、駒沢にTOKYO DANCE. というお店を構える土居健(どい けん)さんです。2020年1月に開催した100個の花瓶を販売する「I collected 100 flower vases」が好評で、本年続編となる“vol.2”も開催。香内とは体育学部出身という意外な共通点もあります。TOKYO DANCE.ならではの世界観はどのようにしてつくられたのか。その背景に迫りました。
text:Kaori TAKAYAMA(Magazine isn’t dead.) / photo:Mikako KOZAI

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洋服からモノへ移っていった興味

 小さな空間に堆(うずたか)く積み上がる用途も年代も様々なモノたち。棚などの家具からグラスや皿などの食器、オブジェ、使い道不明な謎めいた雑貨まで、人が一人やっと通れるほどのわずかな隙間を残してひしめき合う。ガラス越しに店内を確認できるため、思わず足を止めてしまう通行人も多い。店の名は、TOKYO DANCE.。いかにしてその空間は生まれたのか。
 「2017年12月に店を始めて、ちょうど3年が経ちました」と話す土居さんが古いモノに魅せられたきっかけは高校時代に遡る。「古着が好きでいろんな店に行く中で、町田にあったとある店に特に惹かれて通い始めて。次第にその世界観をつくっている服以外の什器なんかも気になるようになったんです」。
 その店との出会いは、土居少年の目の前に広がる世界を変えたのだろう。服からモノに興味が移り、「この什器を自分でも集められるようになりたい」とまで思うようになった。
 大学時代には友人たちとギャラリーを借り、写真展を開催したこともあった。「そこで空間づくりの楽しさを知って。いつか自分の店をやりたい、と漠然と思い始めました」。
そんな思いを口にしていた矢先、古物を扱うお店で働くチャンスが巡ってくる。迷わず一歩を踏み出し、1年半ほど修行させてもらった。
 人との縁や経験がゆるやかに繋がり、うっすらと道になり始めていた。24歳になっていた。

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まさか店を始められるなんて思ってもいなかった

 「店がやれるなんて全然思ってもみなかったんです」と土居さんは振り返る。古物を仕事にしたいという思いを抱きながら、フリーターになった。「働きながら、土日は骨董市に行きました。レンタカーを借りて、出先でたまたま片付けをしているような場所があったら声をかけたりもしましたね」。
 コツコツとモノを集め、自宅に保管。物量がかなり増えたため、場所を借りて展示販売ができないかと考え始めた。そうしてたどり着いたのがギャラリーだった今の物件。4日間借りたのち、オーナーから驚きの一言が飛び出した。「ここもう辞めるから、そのまま店やっちゃえば」。
 すぐに、やりますと返答し、契約。半年の準備期間を経て無事にオープンを迎えた。「やれるならやるしかないなと。何も考えてなかったので、店を始めて駅から遠いことにも気づいて。最初は全然人も来なかった(笑)」。
 幸先不安なスタートだったが、徐々に口コミで来店してくれる人が増えていった。そして半年後、今のTOKYO DANCE.を形づくる契機となった出会いがあった。
 「店の前にスキンヘッドの強面の人がいて、ずっとこっちを見ていて。勇気を出して挨拶してみたら、うち解体やってるから見に来れば?と言ってくれたんです」。その人は、いつも自分たちが捨てているモノを売っていることをずっと不思議に思っていたらしい。数日後、大きな現場へ出向いた。店を構えてから、初めてのちゃんとした解体現場だった。

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小さな空間だったからこそ生まれた独自の世界観

 「2トントラックいっぱいに仕入れて帰ってきて。本当にすごい量でした。で、その荷物を店に入れるしかなくて」。とにかく積み上げていくと、意外にも収まった。そうして今のスタイルが生まれた。解体現場に足を運べる機会も増え、仕入れては収め、売るというサイクルを繰り返す。あの小さな空間と出会いが、TOKYO DANCE.独自の世界観を築き上げていったのだ。
 2019年からは郊外に倉庫も借り始めた。天井が高く広いその空間も、足の踏み場がないくらいモノで溢れている。主に家具のリペアはここで手がける。
 最近はお客さんの実家や、気になる場所へ突撃することもある。スクラップ・アンド・ビルドを繰り返す東京では、今日もどこかで壊される建物があるだろう。「ずっと気になっていた場所がある日なくなっていることもある。車で走りながら常に見ていますね」。消費され、捨てられる運命にあるモノを救い、価値を感じてくれる人に手渡すTOKYO DANCE.は、現代の東京だからこそ可能にした店のあり方かもしれない。
 「並べているときが一番楽しい。モノを組み合わせてつくり出した世界観がどれだけイケてるか、可能性を感じるその余白に値段を付けたいんです」。客に価値を委ね、共感した人が「これください」と持ってくる。その瞬間がたまらないのだという。「モノで大喜利するというか、お客さんと会話できるのがいいんですよね」。
 土居さんはこれからもモノを集め、TOKYO DANCE.という場でその価値を問い続けていく。

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