skinobject 奥田行 東京


どんなクリエイションよりも、人ほど面白いものはない(後編)
VOICEの香内斉が、尊敬する“人”にフォーカスを当てる「JOURNAL」。10人目としてご登場いただくのは、陶芸作家として本格的に歩みを始めた奥田行(ごう)さんです。奥田さんはMANHOODの代表で美容師としての顔を持ち、写真家としても活動しています。前編では、奥田さんの少年時代から美容師として独立するまでを伺いました。後編では、陶芸作品をつくる背景にある思いや今後の展望もお聞きしました。(全2回)
text:Kaori TAKAYAMA(Magazine isn’t dead.)/ photo:Hitoshi KONAI
なぜ陶芸だったのか
40歳を目前にして、奥田さんは考えた。自分に何かもう一つ付加価値を付けたい、と。
「自宅のリビングで考えているときに目の前に陶器があって、これかもしれないと直感的に思いました。陶器は好きでよく買っていて、リビングにたくさん飾っていたので。つくることが元々好きだし、やるからにはプロになろうと決めました」
美容師を目指す決意をしたときと同じだ。写真もそうだったと言う。MANHOODのスタッフがヘアメイクを担当した結婚式で、あくまでもスタッフのヘアメイク記録を撮るためにカメラを持って出向いた。撮るうちに楽しくなってしまい、披露宴会場や新郎新婦の写真を勝手に収めてしまう。偶然にも新郎新婦がカメラマンを雇っておらず、後日二人に写真データを送ったところ、とても喜んでくれた。「仕事にできるかもしれない」と思い、自身のホームページに掲載すると、実際に仕事が舞い込んだ。
「好きなことは仕事にできるんだと思ったと同時に、仕事にした上で評価して欲しい自分がいたことにも気づいたんです。やりたいことで、お金として対価が返ってくる。自分を求めてくれたことの快感を覚えたというか。だから陶芸をやるからには本気で陶芸家になってやろうと。そこまでいかないと面白くない、という始まりがありました」
そうして2021年、陶芸教室に通い始めた。「陶芸家になりたいんです」と先生に伝えたが、本気だとは受け止めてもらえなかった。
奥田行としての作品が生まれるまで
「始めてからどんどん自我を出していくんです。『どうやってこういう形をつくったらいいんですか?』と先生に質問して。すると先生も、本気だとわかってくれて教えてくれるようになるんですよ。いつの間にか『奥田さんはアーティスト気質ですね』と、どんどん認めてくれるようになりました」
基礎の成形から教わり順調に上達していったものの、作家を目指す上で当初は自分が何をつくりたいのかがわからず、壁にぶつかった。
「作家になりたいとは漠然と決めていたけれど、作家になるということは作家性が必要。果たして何をつくったら作家っぽく見えるのか、ゼロから始めていたのでまったく考えていなかったです。少しずつ見え始めたのは、素焼きですね。土の質感がそのまま残ったものを自分の作品にしたいと思うようになったのが第一歩でした」
しかし、施釉をしなければ水などを入れても漏れてしまい、実用品としては使うことができない。釉薬を掛けることで、器として成り立つのだ。
「だったらオブジェとして作品にするのはどうだろうか、と沸々と考え始めるんです。同時に、素焼きの色が肌の色のようにも見えてきて。肌色は何色にもできる。そう思ったときに『skin』という言葉が頭に浮かび、無限の可能性を秘めた名前にできると感じました」
そうして「skinobject」というプロジェクト名が誕生した。
次々と形になる作品
skinobjectは、素焼きの色を活かした釉薬や薄く漆付けをしているものもあり、オブジェとしても花器としても愉しめる。人間の肌の色がさまざまであるように、同じように見える色でも微妙な違いがあったり、まるで肌の質感を表すような色味が施されていたり、ほくろのように見える点があったりなど、多彩な表情があるのが魅力だ。中でも、自身のキーとなった作品として「PARK」を挙げる。よく行く駒沢オリンピック公園で、このモチーフを偶然見つけたことがきっかけだ。
「数年前に発見して、近づくと少し割れたりしていてかっこよくて。おそらく、使われなくなった噴水だと思うんですよ。もしかしたら、できた当初は子どもたちが周りで遊んでいたかもしれない。なぜここに?という場所に設置されているので、いまは見つけた人しか近づいていなくて。水は出ていないけれど、たまに子どもが寄っていたりもします。オブジェとしてもかっこいいし、エピソードを勝手に想像できるのもいいなと思ったんです。いつか自分が陶芸ができるようになったら、こういう形をつくりたいと考えていたので、たどり着けたときはうれしかったですね」
次に生まれたのは「kouro」だった。寺で見かける大きな香炉にヒントを得て、ありそうでなかったお香立てを生み出した。
「物自体はただの器で、砂を入れてお香を立てているだけなんですけど、線香立てじゃなくてお香立てだとアプローチする点が違う観点。ずっとお香を挿しっぱなしでいいし、灰も散らからずに機能的です。作品というよりは製品として勝負できそうだと感じた第1号です」
陶芸を通じて出会う人を大切にしたい
作品は自身のInstagramにどんどん掲載していった。奥田さんから陶芸を始めたことを聞いていた香内は、掲載された作品に惚れ、実物を観にMANHOODを訪れた。その日のことを奥田さんははっきりと記憶している。「オフィシャルで告知して買ってくれたのはこっさん(香内)が初めてで。さらっと買っていったのが粋で、そこにまた痺れましたね」と笑う。
そして昨年、初の個展をduftで開催し、個展に合わせてduftオリジナルの花器も制作した。ほとんど全部が売れて、自信になったと言う。2度目の個展である今回は、「青丸食器」シリーズが初お披露目となる。元々食器をつくるつもりはなかったが、展示を観た方から「食器を見たい」という声が増えたことで期待に応えようと考えた。食器ブランドとして立ち上げ、こちらにもひっそりとほくろが付いている。今後も状況に応じて、新たな作品を生み出していきたいと語る。
「僕が陶芸をやる醍醐味は、人なんです。人と繋がりたいためにやっているので、陶芸教室も始めます。世の中に人はたくさんいて、可能性は無限。だから誰とでも話す、ではなくて出会えている縁を大事にしたい。それを追求し続けるというのが、僕がいま陶芸をやっている意味です。どんなクリエイションよりも、上にあるのが人なんです。誰かと僕が出会ったり、その人と一緒に時間を過ごすためにすべてはあると思っています。MANHOODもそう。MANHOODは人間らしさって意味なんです。始めて15年以上経つけれど、人ほど面白いものはないという思いは変わってないですね」

skinobject exhibition
日程 : 2025年3月8日〜3月16日(3/11は定休日)
場所 : VOICE (東京都渋谷区神宮前3-7-11)