farver 渡辺 礼人 東京

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初心に帰って

VOICEの香内斉が、自身と深く繋がりを持ち、尊敬する“人”にフォーカスを当てる「JOURNAL」。記念すべき第一弾は、中目黒にある花屋farverの渡辺礼人さん。前回は、お店としての紆余曲折についてお聞きしました。最終回の今回は、コロナウイルスという出来事を乗り越えた今のこと、そしてこれからについてお話いただきます。(全4回)
text:Kaori TAKAYAMA(Magazine isn’t dead.)/ photo:Isao NISHIYAMA

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独立した二人とは切磋琢磨できるいい関係

 教え子が業界に出るということは、自分のコピーが出ていくということ。どう考えてもルーキーの方がキャッチーだから、仕事は当然そちらにいく。焦りがありました。若ちゃんも香内さんも頑張っているのを見ていたから、僕も変わらなきゃと努力しましたね。それからの3、4年くらいは、自分が技術的に一番伸びたと感じています。二人とはお互いに切磋琢磨できるいい関係です。
 だから2020年は忙しくなる予定だったんです。数年前からお店の規模を縮小させていたので今は3人でやっていますが、絶対回らないってくらい仕事が入っていました。今回のコロナで全部なくなりましたけどね(笑)。でも、先が見えてきたというのはいい兆しで、気持ちがすごく明るくなりますよね。昨年は、何周か回ってやっぱり渡辺さんがいいね、と久しぶりに依頼してくれた懐かしい人との仕事も多かったです。
 今は本当にいい精神状態でやれているし、花もより好きになりました。忙しいときは、花のことをそんなに深く知ろうともしていなかった。今振り返ると“消費”でしたね。
 業界的にfarverが認められていくにつれて、若い生産者の方たちがわざわざ会いに来てくれるようになって、彼らと話をすることで自分が無知であることにも気づけました。だから知りたいと思ったし、知ればその喜びを感じられました。初心に帰ることができて、そこから知識も技術も増えたと思います。他の花屋さんには絶対負けたくないという意地もありました。

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初心に帰って蒔いた種の芽が出てきた

 貪欲にやっているときの方がパワーがある。この10年で何度も波がありましたが、その度に反省して、経験して、後悔したから変わることができました。自分が確固たる信念を持てば人はついてきてくれるし、そこに仕事やお金がやってくるのだと思います。今仕事がすごく楽しいんです。それは、自分が初心に帰って蒔いた種が苦労した結果、芽が出たからで、その成果を今回のコロナで垣間見ることができました。
 自粛期間中もお店をずっと開けていました。僕は震災を体験しているから、“今”花が必要だと思ったんです。地域の人にも元気になってもらいたくて。けれど、僕だけが頑張ってもダメ。小売と市場という流通経路、そして生産者という連携があるから成り立つんです。店を閉めるという選択肢が間違いではないと思いますが、一方で花は育っていくので、生産者にしわ寄せがきてしまう。だからお店を開けて、花を市場で買い続けることが僕にできる最善だと思いました。
 その時期はお客さんがひっきりなしに来てくれました。初めて花を買うという方も多かったですね。みんな花屋に何かを求めて来てくれて、帰るときには満足した顔になる。僕は好きな花を好きなだけ並べて、それが全部売れて利益も出て、必要とされている感じを味わえた。それは本当にうれしいし、やりがいがあることで幸せすぎますよね。
 今後お店というものはさらに重要になっていくのだと体感しました。

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劇場のような花屋をつくりたい

 今回のことで、誰に会わずともスピーディに買えることがより当たり前になりましたよね。けれど、わざわざ労力をかけてお店に来て、ウェブでも買えるものを買うことの意味を考えるようになりました。お店の存在意義はそこになっていくんじゃないでしょうか。これも美容師時代の経験からですが、あそこに行けば自分のことを全部わかってくれているから安心して任せられる、というようなことが大事になってくると思います。
 僕じゃないスタッフがそれぞれ顧客をつけていくことが今後の課題ですね。若い子たちを育てていける環境をつくっていきたい。スクールみたいなこともやりたいなとも思っています。
 自分だけのお店もやりたいですね。名前を屋号にして、「Ayato Watanabe」という店名で。構想だけはできているんです。中が見えるガラス張りのお店で、オープンキッチンでシェフが料理しているようにデザイナーが花を束ねる、劇場のような花屋をつくりたいと思っています。そして、僕だから頼りたいっていう人が来てくれるお店にしたいです。そんなお店をやりながらfarverにももちろん在籍して。ここは、いろんな若手が巣立つ前の足場としての機能も持たせながら、この場所だから来やすいお客さんを相手にしっかりファンを獲得していきたいです。
 僕が楽しいと思わないと、お店としては成長していかないと思うんです。ポジティブに考えることが大事だと最近気づけました。この先何十年も花屋を続けていきたいですね。