farver 渡辺 礼人 東京

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“花柄が好き”からひらけた花屋への入口

VOICEの香内斉が、自身と深く繋がりを持ち、尊敬する“人”にフォーカスを当てる「JOURNAL」。記念すべき第一弾は、中目黒にある花屋farverの渡辺礼人(わたなべ あやと)さん。香内がこの業界に入るきっかけをつくった人でもあります。2020年3月に10周年を迎えたfarverの渡辺さんは、どのようにしてフローリストの道を歩むことになったのか。そんな始まりの話を渡辺さんにお聞きしました。(全4回)
text:Kaori TAKAYAMA(Magazine isn’t dead.) / photo:Isao NISHIYAMA

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理想と現実のギャップに悩んだ美容師時代

 僕たちが高校生の頃にカリスマ美容師ブームがあったんです。当時、美容師たちが観客の前でヘアカットをして投票で優劣を決める「シザーズリーグ」というテレビ番組を夢中で観ていて、華やかでかっこいいと思って。出身は新潟県長岡市です。美容業界を目指すために上京し、専門学校を卒業後美容師になりました。
 美容師になって思ったのが、華やかな面の一方で目に見えないスキルを磨くという、自己投資の時間がたくさんあるということ。当時僕は会話することが苦手で。初めはシャンプーからなのですが、そこでの会話にすごく苦労したんです。先輩から注意されたことも多くて、悔しくて会話を繋げられるように勉強しましたね。だんだん引き出しのように会話のマニュアルが増えていって、少しずつ自信になりました。
 カリスマ美容師ブームの世代に美容師になった人はすごく多かったんです。でも分母、つまりお客さんの数は変わっていない。その中でデビューが早い、遅いというのが20代半ばくらいから見えてくるようになるんです。僕は遅かったんですよ。今振り返ると、単純に自己投資が他より劣っていたからだとわかるのですが、当時は劣等感を感じてしまって。もうやりたくないと思って辞めちゃったんです。いわゆる“バックレ”ですね。
 僕も経営者になってバックレされましたが、決して気分もよくないし、事業にも迷惑がかかる。結局全部自分に返ってくるんですね(笑)。

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花屋への入口は、花柄が好きだったことがきっかけだった

 そこから突然無職です。親にも言えなくて、しばらくして帰省したときに「実は辞めたんだよね」と話して。びっくりされましたね。「帰ってきた方がいいんじゃない?」と言われたのですが、東京の華やかさや、他よりも優れたものになりたいと集まる人たちのせめぎ合いのパワーが街の魅力だと思ったんですよね。だから僕は東京にいたかったし、圧倒的に選べる仕事も多い。何がしたいとは決まっていなかったけれど、好きなことが仕事に繋がった方がいいなとは思って。大金持ちになれなくてもいいから、それが幸せなのかなって。
 じゃあ好きなことって何だろうって考えたときに、“洋服の花柄が好き”というのが唯一浮かびました。花柄のワンピースなんかがすごく好きで。柄が好きなんですかね。洋服の花柄が好きだから花屋やってみよう、ってパッとそのとき思ったんです。
 そんな時期にたまたま街を歩いていたら、新宿タカシマヤの1階のウィンドウが目につきました。ゴトウフローリストというお店によるディスプレイで、花でこういうことができるんだ、と惹かれたんですよね。やってみようかな、嫌なら辞めればいいしという感覚で、インターネットで調べたら人を募集していたんです。履歴書を送ったら面接しましょう、と連絡がきて。場所が六本木にある本店ですと言われて当日行ったら、めちゃめちゃ高級な感じの花屋さんで。業界では知らない人のいない120年以上続く花屋だったんです。

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つまらないと思っていた日々の中で見つけた仕事の楽しさ

 無事に入社できて、本店で働くことになりました。ただ、入ったときは仕事がつまらなくて。規模が大きいお店なので、分業制にして効率を上げていました。配達担当、アレンジや花束をつくる花形の役割のデザイナー、接客をする人、事務、生け込みやブライダルのチーム…という感じで。僕は、市場から仕入れた花を店頭に出す前に下処理をする、水揚げ作業のチームに配属されました。
 1日に仕入れる量がとんでもなくて。farverの店内がダンボールでいっぱいになるくらい。水揚げは仕入れがある月・水・金で、他の曜日は水換えをするんです。自分が水揚げして2、3日後の花を触って水換えをして並べることを繰り返す中で、花の変化がわかるようになりました。
 毎日新しい花が入るし、原価の高い花もたくさんあった。最上級品が常に並んでいる店だったから、いいものを見られる状態で修行できたことはプラスになっていますね。
 値段には何かしらの理由がある。長さや産地、鮮度も関係あります。いい花をつくっている人は、それだけのコストもかけているので原価を上げる必要がある。業界内で付加価値が付いていくと、いい生産者になっていくわけですよね。そういう人はずっと続けられていて、花の価格もやっぱり高い。そんな花を当たり前のように見ていたから、あまり質がよくないものはパッと見ただけでわかるようになって。その楽しさに自分が気づいたときに世界がすごく変わりました。 (第2回へ続く)