REEL 宗片晴果 東京

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この先何十年も使えるものを、自分で手を動かしてつくっていきたい

VOICEの香内斉が、自身と深く繋がりを持ち、尊敬する“人”にフォーカスを当てる「JOURNAL」。第三弾は、日常に寄り添うミニマルなデザインに定評のある革製品のブランド、REELを主宰する宗片晴果(むねかた はるか)さん。VOICEで使っているキャッシュトレイやお正月飾りの制作も2018年からお願いしています。昨年構えたアトリエ兼ショップであるtor(トーア)にて、溢れるものづくりへの思いを伺いました。
text:Kaori TAKAYAMA(Magazine isn’t dead.)/ photo:Shingo GOYA

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革職人の父の背中を追って

 「父が革職人だったんです」。
 宗片さんの実家は、山形県で革とバイクと喫茶のお店を営んでいた。好きなことを仕事にする両親の姿をずっと見ながら育ってきたのだ。そんな両親の影響でファッションの世界に憧れを抱き、上京。専門学校を卒業後セレクトショップで働き始めた。
 販売員としてキャリアを重ねる中で、手に職をつけたいという思いが芽生える。「この先のことを考えたときにふと父の姿が浮かんで。父が亡くなるとミシンが残される。道具だけが残って、自分が何もできないのはもったいないと感じたんです」。父の背中を追い、革の修行を始めることを決意した。
 そうして行き着いたのが、革鞄工房のHERZ(ヘルツ)である。分業制ではなく一から全行程に関われる働き方に惹かれた。ビジネスバッグやランドセル、財布、カードケースなど幅広いアイテムの革製品を手がける工房で、販売店に併設されているがゆえ、製作風景を来店客が見られるという珍しい形態をとっていた。ここでの経験が、その後自身の空間づくりに大いに生かされることになる。
 HERZには7年在籍した。「だんだんと自分だったらこうしたい、違う色でつくってみたいというのが増えてきて。知人の個人オーダーも受けるようになって、会社で残って制作したり、家でやったり。手縫いで制作していましたね」。工房で働きながら、多くの個人オーダーに対応する日々。ブランドをやりたいという気持ちが次第に高まり、独立を決めた。

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丈夫で強くて、長く使えるものを

 ある日、祐天寺にセレクトショップfeets(フィート)を構えるオーナーから、革を用いたサコッシュの製作依頼を受ける。納品すると売れ行きがよく、何度も追加注文がくるようになった。元々の関係性もあり、独立を考えていることを相談すると、「場所どうするの?うちの裏空いてるけどどう?」と予想外の返答があった。
 早速訪ねると少々狭いことが気になったが、「きっかけとして一人で始めるよりは、意見を出してくれる仲間がいた方がうれしいなと思いました」。2018年1月、REELが始動した。
 ブランド名は、釣り糸のリールに由来する。「丈夫で強くて、長く使えるものをつくることが大前提。リールって絶対切れないし、響きもいい。ブランドを持つことになったらこんな名前にしようと妄想していたうちの一つでもありました」。友人をはじめとする様々な職業の人たちとともにものづくりすることも好きだからこそ、“巻き取り”、いろんな要素を表現したいという思いも込めた。
 「長く使える理由ってシンプルだと思うんです。ベーシックな形が使いやすい。例えば、コンバースやリーバイスっていまだに同じ形で作られていますよね。それってすごいこと。機能性と耐久性を大事にして、十年、二十年使えるものをつくりたいです」。加えて、日常で使えるものでなければ意味がない、と続ける。「いつも手にすることで少しでもテンションが上がるような、充実感を与えられるものづくりがしたいですね」。

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引き継がれていく、ものづくりの場

 20年8月、REEL単独のアトリエ兼店舗を構えた。店名は、tor(トーア)。ドイツ語で門という意味を持つ。「REELの商品だけではない幅広いものを置ける場でありたいし、この空間を使って展示もしたいと考えています」。どんな形でやっていくのが自分に合うのだろうかと、ずっと模索を続けてきた。「お客さんとのパーソナルな関係を築きたいし、人と人でいたいから場を持つことを目標にしていたんです。やっとスタートラインに立てた感じですね」。笑顔の奥に強い覚悟を滲ませる。
 ここは、HERZ時代の先輩が鞄屋を営んでいた場所だという。「移転が決まったときに電話をくださったんです。先輩の前も、その方の叔母さんが鞄屋さんをやっていたそうです」。築44年のマンションの一室には、ものづくりへの思いが脈々と引き継がれている。
 1年ほど前から、和のものづくりにも挑戦。例えば、掛け軸がそうだ。「革でつくることで現代の生活に馴染むインテリアになるかもしれないと思って。若い人がワンルームに飾れるようなアイテムがあったらなと考えました」。シリーズ化して製作したいものがたくさんあるという。
 最後に、今後の展望を聞いた。「日本の人に使ってもらいたいし修理も受けたいから、今のところ海外での販売は考えていません。まずは日本で浸透させていきたい。この先もずっと自分で手を動かしてつくっていきたいですね」。宗片さんは今日もここで黙々とものづくりに励んでいる。

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